城下町と歩み熟した和菓子文化 〜銘菓「若草」〜
SPEAKER→彩雲堂
2023年02月22日
松江藩七代藩主・松平治郷は大名茶人不昧公(ふまいこう)として知られ、茶の湯文化を松江に広めました。「若草」は不昧公が愛した銘菓の一つ。当時の味を復刻し今に伝える「彩雲堂」に、和菓子文化への思いを聞きました。
彩雲堂
移ろう季節の美しさを楽しむ和菓子
「彩雲堂」は明治7年(1874年)に創業し、2024年に150周年を迎えます。銘菓「若草」をはじめ、四季折々に多種多様な和菓子をお届けしています。生菓子は草花や季節の風景、年中行事などを表現。旬を少し先取りし、10日から二週間ごとにデザインを変え、季節の移ろいをお届けしています。2023年3月からは本店がリニューアル。職人の作業を見学できるコーナーや、アフタヌーンティー感覚で和菓子とお茶が味わえるカフェコーナーがオープンします。観光で松江にいらっしゃったお客様に楽しんでいただくのはもちろん、地域の方やお子さんたちにも、ふるさとが誇る和菓子文化を身近に感じ、魅力を再発見してもらえればと思います。
和菓子は、その土地の歴史や文化、風土を凝縮した存在。一つひとつ異なる名前「菓銘」がつけられ、造形に四季のイメージや物語が込められています。訪れる季節の、その一瞬だけのはかない美しさを感じられることも和菓子の魅力といえるでしょう。和菓子からその背景の物語を遡ってみるのも素敵ですね。ぜひ、召し上がる前に菓銘を聞いて、想像力を働かせ、描かれた世界で心の旅をしてみてください。松江を旅する中で、和菓子を通じて知った季節の花を探し、風の匂いや空気のきらめきを感じるのも、粋な過ごし方だと思います。かしこまらず日常の中でカジュアルに楽しみ、心豊かな時間を味わっていただきたいです。
若草
春の緑をうつしとる、大名茶人の愛した味
「若草」は「山川」「菜種の里」とともに、不昧公ゆかりの三大銘菓の一つとして松江の茶文化に根付いています。美しい緑色をした求肥のお菓子で、島根県の米どころである奥出雲町・仁多のもち米を使用。自社工場で職人が石臼を使い、丁寧に水挽きしています。そのため粒子が均一に整い、もちもちとした歯応えが心地よい独特の食感に。柔らかい菓子でありながら角が美しく凛と立っているのは、生地の弾力の証です。
現在の「若草」は、明治の中期に初代当主・善右衛門が再現復刻したものがベースになっています。善右衛門の時代は不昧公の治世から百年近く経っており、茶席で楽しまれていた菓子の情報は記録の一部にしか残っていませんでした。そこで松江の茶人や古老、歴史に詳しい知識人らを訪ね歩き、文献を紐解き、フィールドワークを重ねて再現したと聞いています。
「若草」は、不昧公の「曇るぞよ 雨ふらぬうち 摘みてこむ 栂尾山の 春の若草」という歌から名づけられました。京都の栂尾山・高山寺に明恵聖人が植えた日本最古と呼ばれる茶畑があります。参勤交代の折だったのでしょうか、不昧公がそこを通りかかられた際に見た景色を詠んだのがこの歌です。「雨が降らないうちに茶の葉を摘みなさい」という内容なので、緑鮮やかな八十八夜の茶摘みの頃だったのかもしれませんね。箱の蓋の裏側にも歌を記していますので、召し上がる前に読んで「若草」の物語を思い描いていただければと思います。
松江で長年愛され続けている「若草」ですが、平成元年の全国菓子博で広く知られるように。現在は松江に限らず、お茶席で春のお菓子として楽しまれています。よもぎを使った初代の味そのままの「復刻若草」も不定期に販売しておりますので、ぜひ食べ比べてみてください。
若草
「若草」は鮮やかな緑色の求肥のお菓子。大名茶人不昧公として知られる、松江藩七代藩主・松平治郷お好みの銘菓の一つです。
彩雲堂
島根県松江市天神町124
0852-21-2727
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